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名古屋地方裁判所 昭和34年(行)20号 判決

原告 岩田三郎

被告 国 外一名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一、原告の申立

(一)  別紙第一目録記載の土地につき昭和二十三年十月二日になされた自作農創設特別措置法第十五条の規定に基く買収処分は無効であることを確認する。

(二)  被告国は原告に対し前項掲記の土地につき名古屋法務局一宮支局受付昭和二十五年四月二十四日第一三九六号、原因前項掲記の買収、取得者農林省なる所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。

(三)  第一項掲記の土地につき昭和二十三年十月二日になされた自作農創設特別措置法に基く被告国より同葛谷に対する売渡処分は無効であることを確認する。

(四)  被告葛谷は原告に対し第一項掲記の土地につき名古屋法務局一宮支局受付昭和二十五年四月二十四日第一三九七号、原因前項掲記の売渡、取得者被告葛谷なる所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。

(五)  被告葛谷は原告に対し別紙第二目録記載の建物を収去して第一項掲記の土地を明渡せ。

(六)  訴訟費用は被告等の負担とする。

との判決を求める。

二、被告等の申立

主文同旨の判決を求める。

第二原告の主張

一、原告の請求原因

(一)  別紙第一目録記載の土地のうち(一)の土地はもと一宮市奥町字貴船二十番宅地二百二十三坪五九の、(二)の土地は同所百五番宅地五十坪の各一部であつて、右二十番と百五番の各土地は併せて一団地を形成しており、いずれも原告の所有であつた。

原告は右百五番の土地上にもと木造瓦葺平家建一棟二戸の家屋(別紙第二目録記載の各家屋の分割前のもの)を所有し、これを被告葛谷及び訴外松原清の両名に賃貸し居住せしめていたのであるが、その後右松原清を退去させ、右家屋の全部と前記各土地のうち別紙第一目録記載の各土地に該当する部分を被告葛谷に賃貸することになつたが、その際条件として、(一)将来原告が工場拡張その他の目的で右賃貸土地を必要とするに至つた場合は、被告葛谷は直ちにこれを原告に返還すること、(二)その代償として、右返還の際原告は右賃貸家屋を取毀して被告葛谷に贈与すること、との約定を被告葛谷との間に取交した。そこで、被告葛谷は原告の諒解のもとに右家屋を二つに分割し、その一半を二十番の土地上に移築して(かくて別紙第二目録記載の二戸の家屋となる)右二戸の家屋とその敷地である別紙第一目録記載の宅地を占有し、現在に至つたものである。

(二)  自作農創設特別措置法(以下自創法と略記する)の施行にあたり、訴外一宮市奥町農地委員会は被告葛谷の申請により、前記百五番及び二十番の各土地のうち同被告の占有にかかる部分につき、同被告の農業用付帯施設として自創法第十五条の規定に基く買収計画を樹立したので、被告国はこれを別紙第一目録記載の如く分筆した上昭和二十三年十月二日買収処分に付し、同日被告葛谷に対しこれが売渡処分を行い、次いで請求の趣旨第二、四項掲記の如くそれぞれ所有権取得の登記手続を了した。

(三)  然しながら、右買収及び売渡処分はいずれも以下に述べる理由により当然無効である。

1 およそ自創法第十五条の規定に基く宅地等の農業用施設の買収は付帯買収という名の示すとおり自作農創設に伴う付随的性質のものであつて、当該農業用施設が売渡さるべき農地に対して付随性乃至従属性を有するものである場合に限りこれを買収の対象となし得るのである。そうして、かかる従属性のある施設であるかどうかの判断は農地委員会の自由裁量に属するものではなく、法規裁量に属するものであると云わねばならぬ。けだし国家の強制力をもつて私権を左右するためには法令上の根拠を要し、且つその法規の適用については厳格であらねばならぬからである。

然るに、別紙第一目録記載の土地は元来農耕とは無縁の市街地である一宮市奥町の繁華街の中心部に位置し、被告葛谷が自作地として売渡を受けた農地とは著しく離れていて、同被告が農耕を営むにつき不可欠のものとは云えない。約言するに立地上、社会上又は経済上のいずれの観点よりするも売渡農地とはなんら緊密な関係がない土地なのである。

従つて、本件買収処分は本来買収のできない土地を買収した違法があるから無効であり、右買収を前提とする本件売渡処分も又無効である。

2 仮りに右の主張が認められないとしても、別紙第一目録記載の土地は次の理由により買収すべき土地ではなかつた。

(イ) 被告葛谷はもと縞のブローカーを本職としていたところ、第二次大戦中に片手間に農業を営むようになつたものであつて、本件買収当時においても同被告の主たる所得は縞のブローカー業によつて得られていた。

(ロ) 被告葛谷は前述の如く、別紙第一目録記載の土地を原告より賃借し、その地上に別紙第二目録記載の家屋を所有していたのであるから、同被告は右土地の買収を申請してこれが売渡を受ける迄もなく、これを農業経営のために使用することにつきなんらの不安がなかつた筈である。

(ハ) 原告は前述の如く、近い将来において右土地を工場拡張のために自ら使用する目的を有していたので、このことを被告葛谷に諒知させた上原告において必要とする場合は何時でも明渡を受けるとの約定のもとにこれを同被告に賃貸していたのである。

右の諸事実があつたため右土地は自創法所定の付帯施設の買収基準に照らし、買収を不相当とするものであつたのに拘らず、これを無視して強行した本件買収、売渡処分は違法にして無効である。

よつて本件買収、売渡処分の無効確認を求めると同時に、被告国及び同葛谷に対し右各処分を原因とする請求趣旨第二、四項掲記の各登記の抹消登記手続を求める。

(四)1  本件買収処分の施行により、原告と被告葛谷との間の別紙第一目録記載の土地の従前の賃貸借契約は消滅したので、本件買収、売渡処分の無効が確認された暁には、被告葛谷は無権限にて右土地を占有していることとなる。よつて原告は所有権に基き、同被告に対し別紙第二目録記載の建物を収去して右土地の明渡をなすことを求める。

2  仮りに本件買収、売渡処分の無効が確認されることにより原告と被告葛谷との間の従前の賃貸借契約が復活すると認められる場合には、

(イ) 原告は、被告葛谷が「原告に必要の生じた場合は何時でも右土地を明渡す」との特約を結びながら、不信にも右土地の買収を申請してこれが売渡を受けた背信行為を理由として、本件訴状の送達をもつて同被告に対し右賃貸借契約解除の意思表示をする。

(ロ) 仮りに右契約解除の意思表示にして効力がない場合には前述の如く被告葛谷は昭和十八年頃原告に対し、原告において必要の際は何時でも右土地を明渡すことを約したところ、原告は現在工場拡張のために右土地を自ら使用する必要に迫られているので、同被告に対し本件訴状の送達をもつてこれが明渡を請求する。

よつて、被告葛谷に対し別紙第二目録記載の家屋を収去して同第一目録記載の土地を明渡すことを求める。

二、被告葛谷の抗弁に対する主張

本件の如く土地の買収及び売渡処分が法に違反し当然無効であることの確認を求める訴について、右土地の時効取得をもつて対抗し得ないことは理論上明白である。

仮りに時効取得が成立し得るとしても、被告葛谷のために所有権移転の登記が経由された時をもつて時効期間の起算点とすべきである。何とならば同被告は原告より別紙第一目録記載の土地を本件買収処分の以前から賃借し、適法にこれを占有していたのであつて、本件売渡処分により改めて善意無過失の占有が開始されたわけではない。従つて原告としては、移転登記のなされない限り時効期間の起算点を明認すべきけじめがなく、中断の方法もないから、その間権利の上に眠つていたということはできない筋合である。

第三被告国の答弁並びに主張

(一)  原告の請求原因(一)のうち別紙第一目録記載の土地がもと原告の所有であつたことは認めるが、その余の事実は知らない。請求原因(二)の事実は全部認める。なお、本件売渡処分の売渡通知書は昭和二十四年三月二日付で発行され、その頃被告葛谷に交付された。

(二)  本件買収及び売渡処分が違法であるとの原告の主張については争う。

1  被告葛谷はもと織物の職人であつたが、昭和の始め頃から当時の愛知県中島郡奥町において少しずつ田畑を借り受けて農業に転じ、第二次大戦中には既に専業の小作農として妻と共に農耕に従事し、終戦当時には奥町字剣光寺十四番田一反の外田畑合計約六反七畝を小作していた。

自創法施行後の農地買収、売渡の進行により、被告葛谷は右小作地のうち、奥町字剣光寺十四番田一反を昭和二十二年十月二日付で、同町字下口西五十九番田一反十三歩を同二十三年三月三十一日付で、同町字宮東四十一番田一反を同二十五年十二月二日付で、いずれも自創法第十六条の規定により売渡を受け、その後更に一筆の売渡を受け、右売渡農地につき自作農となつたのである。

そうして、同被告は昭和十六年頃原告から別紙第二目録記載の建物を譲り受け、その一棟を居住用に充て、裏側の一戸を納屋その他の用に供し、両棟の間の中庭で四季の農作業を行つていたものであるが、右二棟の建物の外には住家も又宅地も所有していなかつたので、昭和二十三年十月頃奥町農地委員会に対し右建物の敷地である別紙第一目録記載の土地の農業用付帯施設としての買収及び売渡を申請した。

2  一般に自創法第十五条の規定による付帯施設の買収については、当該施設が買受申請人の農業経営上必要なることを要し、そうしてその必要性判断の規準として、施設の位置、環境よりして農地改革の趣旨に照らし買収が相当であることが要求されると解されている。然し、その位置環境といつてもこれを単に機械的、外面的に判断すべきものではなく、たとえ当該施設の所在が、買収申請人が売渡を受け、又は売渡を受けるべき農地と地理的に隔つている場合であつても、申請人が必要とする施設を他に求めることができず、該施設の売渡を受けることにより始めて安んじて農耕に精進し得るものとなる場合には、耕作者の地位を強化するという自創法の趣旨よりして、むしろ買収、売渡をなすべきものといわねばならない。

ところで、被告葛谷は所謂土着の農民ではなく、その耕作していた、従つて売渡を受けた農地が奥町のうちのいくつかの字及び隣接町村内に散在していたので、同被告の住家及び納屋の敷地である本件宅地は、売渡農地に隣接はしていなくとも、なお右農地への従属性を認めることができたし、且つ同被告は他に適当な宅地を求めるだけの資力がなかつた関係上、本件宅地は創設自作農たる被告葛谷の居住及び農業経営のために必要と認められたのみならず、原告において自ら右宅地を使用することを相当とする特段の事情も存しなかつたのである。

そこで、奥町農地委員会は被告葛谷の申請を相当と認め、その結果本件買収、売渡処分がなされたものであつて、その間なんら違法の瑕疵の存しなかつたことは明らかである。

第四被告葛谷の答弁並びに抗弁

一、答弁

自創法第三条の規定によつて国に買収された農地の売渡を受けて自作農となつた被告葛谷が、原告主張の土地を農業用施設として買収方の申請をし、奥町農地委員会がその申請を相当と認め、昭和二十三年十月二日政府がこれを買収し、同日付で被告葛谷に売渡したこと、これに照応する所有権移転登記が存すること、被告葛谷が右土地上に原告主張の建物を所有することは認めるが、右買収、売渡処分は適法有効になされたものであつて、原告が主張するように違法のものではない。

二、抗弁

仮りに本件買収、売渡処分が無効のものであつたとしても、被告葛谷は本件売渡を受けた昭和二十三年十月二日以来本件土地を所有の意思をもつて、平穏、公然、善意無過失にて占有しており、現在迄に十年を経過しているから、同被告は時効によつて右土地の所有権を取得している。

第五証拠〈省略〉

理由

先ず、買収、売渡処分無効確認の請求について判断する。

別紙第一目録記載の土地(以下本件宅地と略記する)はもと原告の所有であつたところ、政府は昭和二十三年十月二日付でこれを自創法第十五条の規定に基く買収処分に付し、同日付で被告葛谷に売渡したことは当事者間に争がない。

案ずるに、原告が本件買収、売渡処分の無効確認を訴求する法律上の利益は、本件買収、売渡処分が無効と確認されることにより、本件宅地の買収前の所有者たる原告が、今なおその所有権を有することの確認を得たと同一の結果を招来し、因つて自己の権利を明確ならしめて現在の不安を除去する点に存すると解せられる。従つて、仮りに本件において買収、売渡処分が無効であるとしても、なんらかの理由により、通常の場合とは異り、本件宅地の所有権が現在は原告に存しないと認むべき関係にあるものとすれば原告にとつて本件買収、売渡処分の無効確認を求める法律上の利益はないと解さねばならない。

この点につき顧慮しなければならないのは、被告葛谷が、仮りに本件買収、売渡処分が無効であるとしても同被告は本件宅地の所有権を時効により取得していると主張して抗争している点である。何故なら、もし右主張にして正当とすれば、右に述べた理由からして原告は本件買収、売渡処分の無効確認を求める法律上の利益を有しないと認めざるを得ないからである。そこで、被告葛谷が仮定的に主張する時効の抗弁についてここで検討を加えねばならない。

原告は、本件の如く自創法による土地の買収、売渡処分が法に違背して当然無効であるような場合には、買受人たる被告葛谷が売渡土地の所有権を時効によつて取得することはできないと主張するけれども、被告葛谷の本件宅地の占有が取得時効の一般の要件を満たすものである限りは時効取得を否定すべき理由はなく、被告葛谷が行政処分たる本件買収、売渡処分を原因として本件宅地の自主占有を開始するに至つたものであるとしても、かかる事実が時効取得を妨げる根拠となるとは考えられない。

そこで、時効期間の起算点について案ずるに、被告葛谷は本件買収処分の当時原告から本件宅地を賃借していたことは当事者間に争がないので、本件買収迄、及び買収後売渡迄の被告葛谷の本件宅地の占有は、その占有権原の性質上所有の意思のないものであつたことが明らかだから、被告葛谷は本件売渡処分を新たな権原として、本件宅地の自主占有を始めたものと解せられるところ被告葛谷はこの点につき、本件売渡処分の日付であることが当事者間に争のない昭和二十三年十月二日より、所有の意思をもつて本件宅地の占有を始めたと主張する。然し、売渡土地の所有権移転の効果が売渡通知書に記載された売渡期日に発生することは自創法第二十九条第二項、第二十一条第一項に規定するところではあるが、売渡処分が確定するのは売渡通知書が買受人に現実に交付された時であるから、売渡通知書の交付前に買受人が売渡土地を所有の意思をもつて占有するということは考えられないので、本件売渡通知書が何時被告葛谷に交付されたかを審究することなしに、被告葛谷の右主張を直ちに採用することはできない。これに対し、知事より買受人への売渡通知書の交付がなされた時は、売渡期日が将来の日付となつていない限り(丙第一号証によると売渡期日は昭和二十三年十二月二日となつていることが認められる)、この時より買受人のために新権原が設定されたこととなり所有の意思をもつてする買受人の買受土地の占有が開始すると解するのが相当である。原告は被告葛谷のために本件宅地の所有権移転登記のなされた時より時効期間を起算すべきであると主張し被告葛谷の本件宅地の所有権移転登記は後記認定の売渡通知書交付の日の後である昭和二十五年四月二十四日になされたことは当事者間に争がないけれども、我法制は登記を不動産の時効取得の要件とはしていないので右主張は理由がない。又、登記がなされていないと、時効中断の方法に窮するというが、原告としては登記の有無に拘らず中断の方法を講ずればよいのであつて、必ずしもさような結果を来たすとは考えられない。

しかして、成立に争のない丙第一号証と被告葛谷の本人尋問の結果によると、愛知県知事より被告葛谷への本件売渡通知書の交付は昭和二十四年四月中に行われたことが認められる。しからば被告葛谷はこの時より本件宅地の自主占有を開始したものと認めるべきである。

被告葛谷の本件宅地の占有が、平穏且つ公然のものであつたことは民法第一八六条によつて推定せられるところであるが、右推定を覆えすべき立証はない。

次に、被告葛谷が右自主占有を始めるにつき過失がなかつたかどうかについて判断する。

過失の有無を判断する基準となる注意義務は、いわゆる専門家を標準とするのではなく、通常人を標準としてこれを決すべきものであるところ、国が法律の規定に従い本件宅地を買収し、これを被告葛谷に売渡した以上、通常人ならば何人も、その宅地の買収売渡処分に無効原因が存在し、その処分が当然無効であるなどと考えるものはない。従つて仮りに原告主張の如く本件宅地の買収売渡処分が無効であるとしても、被告葛谷が本件宅地が売渡処分により自己の所有に帰したと信じたことに過失はなかつたものというべきである。なお仮りに、被告葛谷の本件宅地の買収申請に過失があつた場合には、売渡処分によつて得た右宅地の自主占有についてもなお過失があつたことになるとの議論がなりたつとしても、被告葛谷が本件買収申請の当時、自創法の規定によつて従前の小作地の売渡を受けてその売渡農地につき自作農となつていたこと、本件宅地を原告より賃借し、その地上に別紙第二目録記載の家屋を所有して居住していたことは当事者間に争いがなく被告葛谷の本人尋問の結果によると、同被告はその頃奥町農地委員会の役員であつた訴外高橋重太郎より、創設自作農は宅地の売渡を受けることの可能性もある旨を知らされて、本件買収の申請をするに至つたものであることが認められる。他方、原告が本件買収、売渡処分が無効であることの理由として主張する点を要約すれば、本件宅地が売渡農地の付帯施設とは云えないこと、及び自創法第十五条第二項各号に所定の事由が存在するとの点であるが、たとえば原告主張のような事実が真実に存在するため本件宅地が付帯買収の客体となる適格を有しないものであるとしても、被告葛谷の如く、専門の法律的知識に乏しい通常人が、前記の如き客観的状態の下において、農地委員会の役員の示唆により本件宅地の買収申請をした場合には、その申請行為には過失がないものと云わねばならない。

よつて被告葛谷が本件売渡通知書の受領後本件宅地が自己の所有となつたものと信じたことに過失はなかつたものと解するを相当とする。

そうだとすれば、昭和二十四年四月末日より起算して本訴提起の日であること記録上明らかな昭和三十四年六月一日迄に既に十年が経過したことが明らかであるから、たとえ本件買収、売渡処分が無効であつたとしても、被告葛谷は時効の完成により本件宅地の所有権を取得しているものと認めるべきである。

以上の次第で、被告葛谷の時効の仮定的抗弁は理由があり、従つて本件買収、売渡処分の効力の如何に拘らず、原告は既に本件宅地の所有権を喪失したものとの認定を受けざるを得ないので、冒頭説示の理由によつて、原告が本件買収、売渡処分の無効確認を訴求する法律上の利益はないとの結論に到達する。よつて原告の無効確認請求は権利保護の利益を欠くものとして棄却を免れない。

次に、原告の被告国及び葛谷に対し抹消登記手続を求める請求は、前説示のとおり原告は本件宅地の所有権を有せず、本件宅地の登記名義は現在の権利関係に合致したものであるから、失当として棄却さるべきである。

次に、原告の被告葛谷に対する家屋収去土地明渡の請求について案ずるに、原告が本件宅地の所有権を有することを前提とする右請求は、前記説明のとおり原告は現在右宅地の所有権を有しないのであるから失当であること明らかであり、又、賃貸借契約の存在を前提とする右請求は、たとえ本件買収、売渡処分が無効であるために右処分によつては原告主張の賃貸借契約が消滅しなかつたと仮定しても、右賃貸借契約は被告葛谷が本件宅地の所有権を時効取得した時に消滅したと解すべきであるので、その余の争点について判断を加えるまでもなく、これ亦失当である。

よつて、原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本重美 大内恒夫 南新吾)

(別紙目録省略)

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